第45章 面子をやっても要らない

南坂海乃は、瞳をきゅっとすぼめた。

疲労はその瞬間、霧のように消え去る。代わりに、全身の血が逆流するような感覚が突き上げてきた。

迷う暇などなかった。休憩室で娘の顔を一目見ることすらできないまま、着替えたばかりの白衣をロッカーへ放り込み、車のキーを掴んで飛び出した。

バー・ナイトフォール。

A市でもっとも混沌として、もっとも金が溶ける――そんな欲望の巣だ。

黒のタイトなニットに、ベージュのトレンチを羽織った南坂海乃は、ここの喧騒から浮き上がるほど冷ややかで、澄んだ気配をまとっていた。

店内へ踏み入れた途端、男たちの視線が一斉に彼女へ吸い寄せられる。口笛まで飛んだ。

南坂海乃は眉...

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